私の中に蓄えられた静止した電荷は時として人を襲う。
それは私の意志で抑制することが不可能なので人々に不安と恐怖を与えてしまう。
その力は冬場に増大し、さらに着ているコートやジャケットの材質によって増幅する。
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私の力は主に摩擦帯電によって蓄積された電荷を、その指先で人や物に触れることによって生じさせる放電現象、所謂「火花放電」である。
異なった帯電列や極性など、諸々の条件の変化により放電が爆発的に強力になってしまうこともある。
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2011年3月30日 20:00
最初の被害者はG県I勢崎市のとあるスーパーのとあるレジのとある50代くらいの女性である。
目元のしわと軽くウェーブのかかった髪が印象的だ。仕事も速く性格だ。そしてなにより笑顔を絶やさない。
そんな彼女の笑顔を私は一瞬にして奪ってしまった。容易く。つり銭を受け取る行為のみで。
2011年3月30日 20:40
2人目の被害者はとあるスーパーの近くにあるとあるドンキホーテのとあるレジの20代後半と思しき女性である。
スーパーにコカコーラゼロが売っていなかったことに憤慨した私の指先は、春の雷鳴の如く彼女に火花を散らせた。いや、ドンキホーテにはコーラは沢山売っていたのだが。
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容疑者はここでコカコーラを5本と凛という安いウィスキー1本とプリングルスとポテトニョッキとパスタとカップラーメンを買っている。チキンラーメンお好み焼きに大変興味を示していたが、買わなかったようだ。そして初心者マークのことについては常に失念しているようだ。
2011年3月30日 21:10
3人目の被害者はM橋市のとあるスーパーのとあるレジの40代後半であろう女性である・・・女性であって欲しい・・・である。やはり笑顔は絶やさない。
挽肉とビールを買い忘れた容疑者は、豚の挽肉ととても安い発泡酒をカゴに入れた後に、財布を車の中に置いてきたことに気がついた。愉快なサザエさん。
ここでも一般市民に放電してしまった容疑者は流石に困惑した様子だった。
天気は雨だった。その力は湿度に対しては弱く、頻発するはずが無いと思っていたからだ。
そのとき、空に稲光が走った。
「そうか・・・その所為だったのか」と容疑者は呟き、そして左手を見つめた。
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私は帰り際にセブンイレブンに寄ってさらに被害者を増やした。
そして、家に着いてすぐにキャベツを茹で、挽肉と葱とピーマンを炒めた。キャベツを皿に敷き、その上に炒めたものを乗せ、トマトを切ってバランスよく周りに置いた。昆布だしを使って簡単な吸い物も作った。
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2011年2月7日~3月の未明にかけて
余談ではあるが、容疑者は20代前半と思しき女性に対して頻繁に火花放電を繰り返していた。車から降りた後の発生率があまりに高い為、女性は勿論のこと、容疑者自身も恐怖に慄いているという・・・
確執はいつからあったのだろう。
いや、私が一方的にそう思っているだけなのかも知れない。
彼は私と話しているとき、私の父親として存在できているのだろうか。
Defective structure
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メッセンジャーを起動したまま退席していた。
彼はいつも通り仕事の愚痴を書いた後に「親父より」と書いた。
私はその文字を彼が書いたものだと思うと苛立ちそして嫌悪した。
自分でも不本意な結果であるにせよ、何十年も家族を放置し、兄の葬儀にも顔を出さなかった男を自分の父親などと思いたくはない。
そして彼は兄の訃報を受けても家族に対して直接連絡をしてこなかった。
しかし、母は全くそれに対しては、怒りも悲しみもしなかった。
葬儀のときも彼のことには全く触れなかった。
それを見ていた彼の姉、つまり私の伯母は母の態度が不満だったらしく、母を非難し、そして彼を擁護した。
伯母は言う、彼はいつもあなたたちのことをとても心配しているんだと。
私はただ黙っていた。
言いたいことは山程あったが、母が何も言い返さなかったので私も何も言わなかった。
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穿つ夜。
闇の中へ消えて行く煙草の煙。
長い年月が関係や、繋がりを、雲散霧消させてしまった。
彼は限りなく他人に近い。
しかし、彼は紛れも無く私の父親だ。